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 前川 直輝

Author: 前川 直輝
最終学歴 京都大学法学部
司法修習 54期
カリフォルニア州弁護士
Maekawa国際法律事務所・代表弁護士
https://maelaw.jp/

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Oct 2020 カリフォルニア州司法試験結果・初のオンライン+合格スコア引き下げ
業務にかまけて更新も随分久しぶりとなりました。
本年もどうぞよろしくお願いします。
日本ではカリフォルニア州司法試験に関する限られたリソースのようで、更新がこれだけないのに、ブログやFacebookを通じてアクセスいただいており、有り難いことです。

さて、タイトルにも書きましたとおり、2020年夏季のカリフォルニア州司法試験の合格発表がこの週末にありました。
合格された皆様、おめでとうございます。
State Bar of California Releases Results of October 2020 Bar Exam

”夏季”と書いたのは、例年であれば7月に実施されるところ、2020年はパンデミックを受けて7月は中止となり、10月に完全オンライン試験として実施されたからです。
また、従来より全米でも1,2を争う合格率の低さが問題だとされていたところ、2020年7月16日のカリフォルニア州最高裁判所の決定で、合格ラインのスコア1440を1390に下方修正することになった最初の試験でもあります。

試験終了者が8723人、合格者は5,292人で、合格率60.7%。昨夏が50.1%でしたから、大幅に増えましたね。
延期の影響もあったためか、受験者数も過去最高に迫るレベルだったようです。
受験者が増え、合格ラインが下がりましたから、合格者や合格率の増加も想定されたところだと思います。
日本でも司法試験延期のあおりを受けて、司法修習の開始が12月から翌年(今年)の4月ころに変更になったりしています。現地でも同様の支障が生じていることから、ロースクールの卒業生に対して一定年数内に司法試験に合格することを条件として、Provisional licenseを付与し、上司の監督を受けて業務をすることを条件に弁護士業務資格を限定的に付与されることになっています。

Pass Listはテキストで表示されていて、単純にJapanの表示がある方をピックアップすると、16名の日本在住者が合格されているようです(試験登録当時の住所ですから、多少のカウント数の変更はご容赦のほどを)。Covid-19をめぐる様々な混乱の中、よくぞ突破されました。

MBE・Writingともに完全オンラインで実施されたとのことで、ソフトウエアの仕様から、不正受験の可能性を示唆するChapter 6 noticeを受けた受験者が多く出たようで、SNS等ではその怨嗟の声にあふれている様子です。
ただ、日本在住者の視点から見れば、現地に渡航しなくて良いというのは、環境条件としては大変良いものですから、時差調整さえしっかりすれば、その点を捉えればプラスの要素もあろうかと思います。
小さいながらも事務所を経営しながら、1週間程度の休みを取ってアメリカに渡航、フライト・ホテルのアレンジを行い、現地での生活、試験会場でのあれこれの調整等に苦労していた人間としては、物理的な移動を要しないことは、羨ましい限りですし、合格スコアが下がったことも、大変与しやすくなったのではないかと想像しています。

2021年2月も2月23日・24日にオンライン実施予定です。
様々な困難に見舞われている昨今ではありますが、特に日本に居ながら受験される方が成功されることを強く願っております。
現在、国際模擬仲裁(Vis moot)について大学の学部生さんのコーチをしており、そちらに忙殺されているところですが、試験問題の解析など、ご要望に応じて対応できればと思っています。
それよりなにより、2月1日に迫ったMCLE(カリフォルニア州弁護士として履修すべき研修単位)をクリアしないといけないので、そちらもがんばります。
カリフォルニア州司法試験・February 2020・合格発表とJuly 2020試験の延期
2020年2月のカリフォルニア州司法試験の結果発表が先日ありました。
弁護士会からの公式発表に詳しくレポートがされています。

State Bar of California Releases Results of February 2020 Bar Exam

2020年2月は、4205人受験、1128人合格 26.8%の合格率。情報によれば、史上最低の合格率だそうです。
現地のLLMを出ていないその他大勢のカテゴリでは、初回受験者41%、リピーター20%の合格率です。
現地の新卒者の多くは7月を受験しますので、2月は再受験者が多い傾向があります。今回は、リピーターが全体の71.6%を占めています。
相対的に良質の受験者が多いとされる、CaliforniaのABA accreditedロースクール出身者で、初回受験者でも合格率42%とされているので、受験者の質がどうこうというより、難易度が高かったのだろうと思います。

MBEについても、難化の傾向が見られます。
Californiaの全体平均のScaled scoreは1357で、昨年の1370から下落。下落幅はかなり大きいですね。全米では2020年2月は1326で、昨年の1328からやや下落で、史上最低だそうです。

合格者リストはウェブで公開されていて、居住国が日本の方はお二人いらっしゃったようです。他にも在米あるいは海外在住の方で合格されている方もいらっしゃるかもしれません。合格された方、本当におめでとうございます。

次回は、通例であれば7月下旬だったのですが、Pandemicの状況にかんがみて、9月9日・10日に延期となりました。これに伴い、申込み期限も最終は7月16日までに延長されています。
弁護士会からの9月試験に関するスケジュールその他のサイトは次のとおりです。

September 2020 California Bar Examination

新型コロナウイルスの感染拡大状況が本当に気になるところで、果たして9月の受験時期にどういう状況か不安はあるでしょう。特に飛び込み受験の方は、フライトやホテルをブッキングしなければいけませんが、ご承知のように各国の出入国管理が厳しくなっているので、そこがハードルになる可能性は否定できません。
ただ、同じことは2021年2月に予定をずらしたところで、大きく変わるかどうか微妙なところです。冬の時期で、一般的に感染症リスクも高いことは否定できません。
さすがに現時点で来年のことまで予測は立ちませんが、9月の時期には今よりアメリカ・日本の行き来は自由が確保されているものと推測はしています。現地の新卒者、受験者たちも同じようなハンデは抱えていて、それでも前に進んでいるようです。
もちろん、状況次第で受験の取りやめは可能なシステムですし、それが感染拡大や州知事の各種命令によるものであれば、Refundの条件も緩むと思います。受験対策以上に心配事があって苦しいところですが、情報を随時入手しながら、計画を立てていただければと思います。

一つ言えることは、Californiaの弁護士会自体が現時点では閉鎖していて、職員がリモートワークをしている状況なので、各種申込み、問い合わせの類は、早めにされたほうが良いと思います。事務処理や返答スピードはどうしても落ちてしまいますからね。FacebookやTwitterをされている方なら、弁護士会のアカウントをフォローしておくと乗り遅れなくて良さそうです。

私も陰ながらサポートさせてもらっているお知り合いから色々連絡をもらっていまして、MBEやWritingに関するテキスト、資料などのご質問を受けています。
自分の体験は既に3年近く前のものですが、試験問題を見る限り大きく変わりはなさそうです。SNSで参加している受験者のグループで、合格報告が流れてきていますが、今まで以上に以下のMary Basickさんの書籍を参考にしたという人が多いように見受けられます。
情報が古いのが玉に瑕だったのですが、改訂されたこともあって、さらに広く利用されるようになったようです。BarBriなど大手予備校をオンラインで利用されるのも一つですが、予算や時間の関係で難しいという方は、Maryさんの本を今でもお勧めしています。
当時自分は自習のためにスキャンしたりしていたのですが、今ではKindle版があるようで、羨ましい限りです。

Essay Exam Writing for the California Bar Exam (NITA) (English Edition) Kindle版

MBEについては、過去問を推奨していて、Adaptibarというオンラインのプログラムは、全問題に正答・不正答だけでなく、その理由が詳しく記述されています。正答率や分野別の得意不得意などを集計してくれたりしますから、自習での対策に向いていると思います。比較的安価で、スマートフォンやタブレットでも問題が出来るので、通勤や空き時間の利用にも最適です。
MBE関連の書籍であれば、定番はEmanuelの以下の本ですね。これも限られた過去問があるだけなので(追加したければパート2も売っています)、問題数は足りないかもしれません。ただ、冒頭にはMBE全体の解説、科目別の章にはその科目の特性や問題傾向、間違いやすい分野や理解が必須のポイントを手際よく整理されています。私も旧版でしたが、随分と役に立ちました。なんと、これもKindle版があるんですね。本当に便利になりました。

Strategies & Tactics for the MBE: Multistate Bar Exam (Bar Review)

困難な時期だからこそ、海の向こうの人たちとつながることの必要性は高まっていると思います。数多くの方が海外に目を向け、目的を叶えられることを期待しています。
July 2019 - Q4 - Professional Responsibility
July 2019の試験結果がリリースされて、合格者の方は今後、出来るだけ登録がスムーズに進むように、Moral character determinationやAttorney's oathの手はずを粛々と準備してください。
捲土重来を期する方は、いまのシステムでは科目毎のスコアが出るかと思いますので、まずそれを冷静に分析し、出来るだけ当時のことを思い出しておくこと、特に、期待していたスコアと実際のスコアの乖離があるかどうか、またスコア自体がどこまでの意味があるかをよく検討しておきましょう。
その上で、答案が戻ってくるので、必ず誰かに見てもらうようにしてください。私もご協力は可能です。

California のEssay対策について質問されることが多いのですが、私がこれと進められる本は、以下リンク先のものです。
好みはあるでしょうが、独学する時間が長い人の場合、検討の仕方や論点の取り上げ方、RuleやApllicationの書き方は、一番省力化しているし、日本人受験者ないし英語が母語でない方には真似がしやすいのではないかと思っています。
古いのが玉に瑕だったのですが、Mary Basickさんも反響に答えられたのか、2018年に改訂版が出ているので、現在の受験体制にも即応していると思います。Facebookの受験生グループでも、多くの合格者が勧めておられます。
カリフォルニア州司法試験・Essay対策について

今回は、PRを取り上げます。
July 2019 Essay & Performance Test - Questions
個人的にも登録弁護士としてカリフォルニア州の新しい倫理規則は分かっておく必要があるので、それを見直すきっかけとしようと思って選択しました。また、PRは、思いの外、論文の書き方が難しく、自分も最後まで苦労しましたし、多くの受験生の方が悩まれている科目のようなので、1つの例としてお示しします。

検討の仕方は、以下の過去問検討記事と同じです。
February 2019 - Q2 - Torts
なお、試験委員会からのSample answersは、本記事作成時点では開示されていません。私が模範答案や正解を作れる立場にはありませんから、あくまで比較的最近の合格者による、取り組み方、考え方の参考にしてください。

【Callの分析】
1. Larryは、モーションを提出せよというPeterからの指示(複数)に、倫理的に従うことができるか?議論せよ。
2. Larryの、ダメージを与える書類(単数)に関する義務(複数)は、何があるか。議論せよ。
3. Larryは、XYZのジョブオファーに関して、どのような倫理的義務を尊重しなければならないか。議論せよ。
カリフォルニアとABAの諸規定に基づき、回答しなさい。

試験問題の科目は、Professional Responsibilityだと分かります。CA/ABAとありますから間違いありません。
また、PRオンリーの問題ではないかとも分かります。本文の小問は、すべてEthicalな判断について質問されています。
ただし、小問2は微妙で、”What are Larry’s obligations”とあるだけで、Ethics, Ethicalの単語がありません。倫理に限ったものとはされていないことに留意する必要があります(民事訴訟上のルールは留意が必要です)。

小問の記載のみからわかることは、実はたくさんあります。

▶Larryは弁護士である。
▶LarryはおそらくPeterという上司(パートナー)の部下であるアソシエイトではないか(小問1でInstructionを受ける立場なので)
▶(1)について、裁判上のMotionにつき、Peterから何度か指示があり、それぞれについて倫理面で何か問題があって、アソシエイトとして従うべきかどうか悩ましいこと(上司の指示に従ってはいけない場合なので、相当深刻な問題ではなかろうかと想像できます)。
▶(2)について、Damaging documentというのは、通常、自分のクライアント側に不利な書類という意味です。Documentと単数形ですが、ObligationsとLarryの従うべき義務は複数検討が必要です。一般的にいって、自分には不利だが、相手に出す必要があるかどうかということが問題になるのは間違いなく、Discoveryが絡んでいるなというのは、訴訟手続がわかっていれば本文を読まなくても想像がつきます。
 また、PR全般にも言えますが、Damagingであるというのが、自分のクライアントにどのような不利益があるのか=依頼者へのベストプラクティスを提供すべき義務と、相手方や裁判所に呈示しなければならない要請=公平・誠実の観点とのバランス、比較が重要だということも分かります。
▶(3)について、XYZは弁護士であるLarryに対して転職採用を促しているようですが、何の関係もないローファームであれば悩みは出ないでしょうから、小問(1)・(2)に関連する相手方弁護士の所属事務所じゃないかということくらいは、出題パターンを考えれば予測がつきます。そうでなくても、少なくとも弁護士が事務所を移るときに問題になる、守秘義務の問題、利益相反の処理の問題は、必須論点として間違いなく上がることでしょう。



この時点で、答案にこんな風に書くと思います。
答案構成を紙の問題文、スクラッチペーパーにされる方でも、これはLaptopに書いてしまったら良いです。

Q1. Peter’s instructions to file the motion

Therefore, L may not ethically follow P’s instructions to file the motion.

Q2. Larry’s obligations in relation to the damaging document

Duty to disclose

client’s benefit and royalty

Civil Pro?

Therefore, L owes above obligations in relation to the damaging document.

Q3 Larry’s ethical obligations with regard to XYZ’s job offer
Imputed Conflict of interest
       Screening
former client



Therefore, L must respect ethical obligations as above with regard to XYZ’s job offer.

重要なのは、各小問に対応した結論を書いておくことです。
途中答案でないということや、形式面で整っていることが形式で表現できます。
問題文に忠実に応答しようとしている答案だということも表現できます。
私は受験経験からこれを学び、少なくとも合格したときには全ての答案(PT含む)で実行しましたが、過去の経験に照らしても5ポイントは変わると思います。
さて、肝心の本題に入りましょう。英文一般や、試験問題一般にいえることですが、段落ごとにテーマがあります。

【問題文の検討〜段落ごとに】

<第1段落>=当事者の把握、事件内容・手続の把握
Smith=XYZ vs Jones ABC (L is an associate at ABC.)
Case=improper manufacture tools
Smith requested discovery and Jones to prepare responses (L).

▶第1段落は、基礎情報だけですがイメージをしておく必要があります。原被告も、a suit broght by Smithとあって、米国の事件は大抵、X v Yと原告が先、被告が後、vsとかvで”対”をつけるのが普通ですので、問題文の書き順に関わらずこういうメモを取ります。
Lがどういう立場か(予想通りassociateですね)、誰がクライアントか、何をしているところか、をイメージしておくことです。
小問を先に読んでいれば、ここから上司のPeterからの”無茶振り”があるだろうし、悩ましい証拠が出てくるのだろうと予想がつきます。
▶若干気になるとすれば、この”Suit”が連邦裁判所か、California州裁判所か、どちらで提起されているかまでは特定されていないことです。Larryがカリフォルニア州の弁護士だろうという想像はつきますが、依頼者や相手方当事者が同州の法人とは書いていないですからね。あとで民事訴訟の手続が問題になるかもしれませんが、管轄も特定できないので、特に小問(2)でEthicalの文字がなかった点を気にしつつ、民事訴訟法一般の原則を注意すれば、細かなディスカバリーに関するルールまでは必要ないだろう、という想像はつきそうです。

<第2段落>=Motionに関するPeterの指示
Peter (P) - partner at ABC, supervising L.
P “Instructed” L to file a motion to compel discovery of documents that Smith claimed contains its trade secrets.
L researched the matter, told P that L thought the motion would be denied and may give rise to sanctions.
P, “who had more experience with trade secrets”, told L to file the motion.

▶困ったパートナーのPeterが出てきました。前提条件ではありますが、この特定の事件について、Larryを監督する立場にあるパートナーだということが確認されています。事件に直接関連しないパートナーではないとか、例えば仕事をとってきただけでPeterを直接管理する立場にないパートナーではない、つまり、Peterはこの事件に直接コミットし、かつ、Larryに直接指揮監督をしなければならない立場だということです。試験問題が広範にならないよう、答えやすいように、前提を絞り込んでいるわけです。こういったことは、Law firm事情がイメージできないとわかりにくいかもしれませんが、Suitsのようなアメリカ・イギリスのFirmを舞台にしたドラマや映画を見ていれば、ある程度のイメージは湧くかもしれません。前川さんは問題文に無駄がないといったものの、ここはどういう意味があるんだろうかと悩まれるくらいであれば、素直にとりあえずは受け取っておかれたら十分です。
▶段落中、Peter のInstructionは2つあります。これが大切で、各Instructionに応じて論点をピックアップし、論じなければなりません。小問1をもう一度見返してください。”Peter’s instruction to file the motion”とあります。ここでの指示は必ず2つ以上あるということです。
▶Subordinate lawyerの規制については、ABA Rule 5.2(b)とCalifornia RPC Rule 5.2(b)ともに一緒で、”A subordinate lawyer does not violate the Rules of Professional Conduct if that lawyer acts in accordance with a supervisory lawyer's reasonable resolution of an arguable question of professional duty.”がルールです。
 正確に表現できればベストですが、普通に考えて、まずは所内で問題を議論しておくべきで、Yes/Noいずれもあるのなら、最終は上司の合理的な判断に従う、というのが、associateの務めでしょう。
▶1つ目=PeterはLarryに対して、”書類のディスカバリーを強制するMotion(裁判所命令)を提出せよと指示します。ただし、その書類は、相手方であるSmithが営業気密を含むものだと主張しています。まずこの指示をうけたときに、Larryは従うべきだったでしょうか。
 弁護士一般のルールとして、弁護士は、法令に通暁していなければなりませんし、十分誠実な調査を実行する義務もあります(Zealous representation, thoroughness)。Lは調査を現実に行ったとされているので、ここはあまり問題ではありません。
 また、弁護士は、法令・倫理について疑問が生じた場合には、上司の指示に盲従してはいけません。今回であると、Larryは、Motionが認められない可能性があり、かつ、そのこと事態がSanctionに結びつく可能性があることに思い至ります。そうすると、法廷侮辱罪の問題にも発展するわけで、倫理的にそのまま従うわけにはいかないでしょう。
 細かな話として、弁護士が倫理的な問題に直面したときに、他の弁護士に対して意見すべきかどうか、指摘すべきかどうかという問題があります。Californiaでは一般的に義務としてあるとされていたかと思いますが、実際に、LarryはPeterにそのことを伝えています。Sanctionの可能性という重大な問題についてクリアできていない以上、この時点では、そのままPeterの指示に従うわけにはいかないでしょう。それが1つ目のInstructionに関する回答で、Larry may not ethicall follow Peter’s instruction at this point.というのがあり得る結論です。

▶2つ目=Peterは、再度、Motionを出せと指示します。理由は、営業機密に関してLarryより経験があるからだと書かれています。
 特定の業務分野が出てきた場合は、Competitivenessが問題になるでしょう。
 ここからは難しいですね。問題文が十分な情報量でないので、営業機密について経験がある上司、というだけでは、何ともいいようがないように思われます。ただ、以前から指摘しているように、小問を比較する、という観点からすると、小問2とコントラストをつけることは考えられます。
 すなわち、第3段落(小問2)は、明らかに理由がない指示なのに対し、第2段落では、Larryの判断が断定的でないことを対照させることは可能です。”he thought that the motion would be denied” “may give rise to sanctions”というように、可能性を示しているだけで、どの程度の確度であるのかまでははっきりとしていないからです。そうだとすると、営業機密により経験が多いPeterは、営業機密についてDiscoveryでどういう取扱であるかにも通じていると思われるから、Arguable questionではあるものの、上司のReasonable resolutionと言ってよいので、これに従ってEthical dutyに反しないで、Motionを提出することは可能だ、という結論は、十分選択肢です。

 しかし、ここでのテーマは民事訴訟のDiscoveryにおいて、Motion to compelで書類の開示を強制しようということに対する裁判所の態度であって、Sanctionが与えられるかどうかは、営業機密に関する知識経験だけでは決せられず、むしろ民事訴訟やディスカバリーの専門知識や経験が重要ともいえます。
 Peterは、なぜLarryに再度同じ指示をしたのか、Larryの指摘に対する具体的な応答をしていませんね。営業機密だったら俺のほうが良く分かってるんだから、ではLarryの意見を排除し、クライアントを合理的に守り、あるいは、法令や裁判所の尊厳を尊重した判断とはいえないかもしれません。
 また、クライアントや弁護士事務所にとっても、Sanctionを受けることは大変重大な問題です。この場合、Peterを飛び越えて依頼者に報告・相談をすべきではないでしょうか。あるいは、他のパートナーや、他の民事訴訟に詳しいパートナーや弁護士に相談すべきではないでしょうか。
 こういう分析をするのなら、Larry may not、というのが結論となります。それも1つの選択肢だと思います。
 ここは結論が分かれるところですから、あまり問題文から離れず、”More experience with trade secrets”という箇所をきちんと分析して、きちんと議論を尽くした上での判断だといえるかどうかを悩んでいれば、合格点だと思います。

<第3段落>=Damaging documentの扱い
Larry told Peter re: a damaging document in Jones (依頼者)File = would be very helpful to Smith’s(相手方) case
Larry knows the doc has not been produced in discovery.
The doc falls into a class of papers that have been requested by Smith (相手方)
Larry knows of no basis to refuse the production of the doc.
Peter told Larry to interpose hearsay, trade secrets, and overbreadth objections and not to produce the doc.

▶ここまで丁寧に書かれたら、結論として開示しなければならなかった文書だ、ということは誘導されていますね。問題は、義務の内容です。どういう作為・不作為が問題なのかを整理しなければなりません。
 もし第2段落の小問1と比較するなら、今回は、Arguable questionではないし、Reasonable resolutionでもないから、Larryは上司の指示があったというだけでは義務を免れない、ということがいえそうです。
▶状況としては、元々、相手方から提出を求められていた書類のグループに含まれています。ですから、開示を前提にして、非開示にするためにはそのための法令上の根拠を確認しなければなりませんでした。うっかりではありますが、まずその見落としについては義務違反があります。
 また、これはディスカバリーでしばしばあることですが、本来提出すべきであったものが開示漏れとなった場合、速やかに理由を付して追加で開示しなければなりません。これは訴訟一般における義務でもあります。その意味で、問題設定が、Ethicalに限っていないというのには理由があるのでしょう。
▶次に、その書類を提出することを拒絶する根拠がないことをLarry本人は知っているとされています。第2段落のときのようなファジーな表現ではないので、絶対に拒絶理由がないと知っているのです。だとすれば、Larry must produce the doc to Smith’s lawyer.と言えるでしょう。
▶また拒絶理由がないこと、提出義務があることを、クライアントに報告し、判断を仰ぐ必要があります。訴訟活動全般は特に法令解釈については弁護士の裁量が認められていますが、重要な判断については必ずクライアントに報告Informし、その判断を尊重しなければなりません。
▶さらに、Peterとの関係ではどうでしょうか。意見が対立していますね。Peterは、提出するなという結論で、意見は結構ですけれども、hearsay, trade secrets, overbreadthの3つを根拠としています。まず、Hearsayのような証拠能力の制限はDiscoveryには当てはまりません。それは学生でも知っているような基礎知識です。Trade secretsは場合によっては問題になりますが、そもそも開示すべき対象に含まれていて、Requestに対する回答でその旨を記載しなければならなかったし、実際No basisだと知っている以上、Larryは受け入れるわけにはいかないです。さらに、Overbreadthについても、そもそもDiscoveryの拒絶理由として含まれていない(秘匿特権とか、Workproductのようなケースに限られますよね)上に、LarryとしてはNo basis to refuseと知っているわけですから、これも受け入れられません。もはや、それらは違法な指示、あるいは控えめにいって合理的根拠のない指示なので、Larryとしては法令を遵守しなければならない義務を守る必要があります。問題文には意味があって、Peterのあげる拒絶理由1つずつが、Discoveryのルール上どういう意味を持つか、あるいは、この問題でどういう位置付けになるかは、個別に検討できれば加点事由だと思います。ただし、時間がないかも知れませんし、結局のところ、LarryがNo basisだと知っている、というところでくくられているので、個別に検討するところまでは必須ではないでしょう。
▶問題は、Peterについて何かすべきことはないかです。パートナーですから、かなり問題は深刻ですね。Peterは、もはや根拠のない、やぶれかぶれな理由をあげて、無理に指示をしてきています(そういう態度であることは、Hearsayとか色々理由としている単語そのものから、推認ができるので、できればそこは示したいですね)。
 倫理に違反し、かつそれがクライアントにおいて深刻な問題を起こす可能性があるようなケースであれば、裁判所や弁護士会に報告する必要があるのかどうか。少なくとも、ABCの同じ事務所の他のパートナーには報告・相談すべきですし、そこでPeterが意見を変更したり、案件から外れない場合は、依頼者に報告すべきでしょう。ここで守秘義務は対象の範囲外といえるのではないでしょうか。
 最終的に、違法なアクションを起こそうとしていて、それが是正されなければ、Larryは辞任しなければならないかもしれませんね。いずれにせよ、義務と言われたときには、誰に対するものなのかということ、具体的に何をする義務なのかを、ルールを覚えるときに確認しておく必要があります。
 ただし、細かいことがわからなければ、法務部・弁護士の方なら、ある程度一般的な考え方で結論が出るでしょうから、それを、あたかもRuleであるかのように記載したら良いです。論点やRuleの知識がないが、何が問題かはわかるとき、それを書かないのは避けましょう。自信があるかどうかではなく、思いついたことは、その場で文章にすることです。結論は決まっているのですから、Lawyers owe obligation to / not to do・・・と何か書いて、Here, Larry・・・と当てはめているように書けば点数がつきます。
▶この当たりまで分析したり書いていると、色々と混乱してきますし、時間も切迫してきます。なので、冒頭で書いたように、先に結論を書いておく、しかも「以上のような義務を負う」と総括するような記載をしておくことが、途中答案にならない上で重要だと思います。

<第4段落>=Job offer
最後の段落は、単に相手方事務所から、”魅力的な”ジョブオファーを受けた、ということです。もう一つ、Recentlyという時期も重要です。第3段落までの事件が生じた上でのことだと理解するのが自然です。

▶訴訟の係属中に、相手方当事者の代理をしている事務所に移籍すること自体、禁止されることではないでしょう。そこは当たり前ですが、原則として確認すべきです。小問3の問題文を確認してください。XYZのオファーに関する倫理的義務として”尊重しなければならないこと”を問われています。オファーは受けて良い前提の表現だと読み取れますよね。ただし、かなり面倒なことになるのは、簡単に理解できますし、条件を整える必要があります。それがなぜかを考えれば、Smith v Jonesの事件が係属中だということに尽きます。
▶問題は大きく2つ。1つは利益相反、もう1つは守秘義務です。
 利益相反については、仮に、LarryがABCを辞する場合、原則として、現在の事件について、直接の利害対立を生じさせることを確認しておく必要があります。そのままでは不可です。
 そこで、まず既存の訴訟事件でのJonesのRepresentationを辞する必要があります。当たり前ではありますが、Withdrawalは小さな論点です。直接的な利益相反ですから、辞任できる場合には当たるでしょう。
 なぜなら、その相手方当事者の代理人事務所に入ることは、Imputed conflictsの問題を生じさせるからです。
 Ruleの基本は、If a lawyer faces a conflict of interest, no lawyer in that lawyer’s firm may represent the client.ということです。つまり、Larryの利益相反が、新しい所属先のすべての弁護士に波及し、原則として受任不可ということです。
 ABA Ruleですと、Clientとしては、XYZに対するInformed written consentを与えることで、利益相反を解除することは可能ですが、XYZはそういう措置を講じる必要があります。Larryとしては、XYZに対して、SmithにInformed written consentを取るよう依頼するべきです。
 Californiaでも同様で、Rule 1.8.11でImputation of Prohibition Under Rules 1.8.1 to 1.8.9とあり、同様に個人のコンフリクトルールが他の事務所の弁護士全部に及ぶとされています。Californiaの場合、利益相反が例外的に認められるためには、Client からのInformed written consentだけではだめで、Written disclosureが必要だったり追加の要件があります(RPC Rule 1.7 (a)-(d))。

▶次に、辞任できたとすると、LarryにとってJonesは過去の依頼者だということになります。過去の依頼者の係属中の事件についても、依然としてConflictの問題は残るわけですが、ここでImputed conflictsの例外として、特定の弁護士と過去の依頼者とのコンフリクトで、既存訴訟について、Larryが見聞きしたり関与することが絶対にないよう、そして報酬をシェアすることのないように、シールドを貼る必要があるというのがルールです。Screeningが必要だというのは、有名な論点の1つですし、Law firmがすべきことが多いので、ある程度手短に書けるようにしておくのが望ましいでしょう。1.Timely screened from any participation of the current case, no part of the fee apportioned, written notice promptly given to any affected former client,certifications of compliance、の4点ですね。こういうところは全部完璧でなくても、十分スコアは付きます。
 ちなみに、CaliforniaのPRCでも、Rule 1.10で類似したルールが記載されています。厳密に言うと差があるのですが、そこまでをフォローするのはなかなか受験者としては厳しいと思います。

▶守秘義務については、広範な義務があります。設問もJob offerに関して、と書かれているので、新しい事務所に移籍してからのことだけではなく、できれば、Job interview(面接)のときにも、特にこの事件に関することを話さないこと、逆に、もしABCを辞める前のInterviewなら、その質問をXYZから受けないようにすることに注意が必要です。

 少しリモートな話としては、Attractive job offerというのがもし金銭面等であれば、それがSmith v Jonesの事件について不当な便益を受けることを期待してのことかどうか、予め確認しておく必要があるかもしれませんね。これは一般条項というか、Ethical obligationに違反するような環境にならないように留意すべき義務があるといえるかもしれません。

【総じての雑感】
 PRの問題としては、典型的な利益相反の問題について、associateの立場から上司あるいは移籍先との関係で少しひねった上で、検討させるものでした。論点自体は標準的なものといえると思います。
 ただし、思考過程を説明をする趣旨を含んでいるとはいえ、日本語でもこれだけのことを色々考えなければなりません。これはQ4で午後の1問目です。PRの答案は、基本的に長くなりがちです。ルールが長いし、ABAとCAを比較させるので、他の科目より時間をどうしても取られるのです。
 今回、科目が事前リリースされるという事態がありましたから、皆さんいつもよりはPRの準備に時間を当てていたでしょうけれども、この問題が決して簡単だとはいえないと思います。この問題に関する限り、PRがかなりの確率で出題される科目であるし、論点もConflict of interestsという重要かつテキストブックの最初に出てくる論点が中心なので、事案そのものが少しひねられていて、整理するのが難しかっただろうと想像しています。

 午後はEssay2問と、PTがあります。最近の傾向として、試験委員会としては、各セッションの最初に、時間のかかる問題を持ってくることが多いように思います。問題を解く順番については戦略を立てておいたほうが良いかもしれません。問題文の分析まで終われば、科目や論点はある程度予測できるので、時間がかかりそう、かからなさそうというのを見極めて、場合によって並んでいる順番とは違う順序で取り組んでいくことも検討に値すると思います。
 特に今回であれば、Essay Q5はRemediesですから、どちらかというとストレートな答案が書ける傾向にあります。一般的に分量も短めです。Q5からスタートすることも一案だと思います。
 私は、最終的には、Callを本当にざっと速読して、その上で順番を考える戦略を取っていました。得意不得意が自分なりに顕著でしたし、長くなりがちな科目があり、かつ問題文の長さである程度あてはめの時間が変わってくるので、短く終わるものを先に片付けて他を後回しにしていました。Snow ball effectは本当にあるので、時間管理に自信が持てる問題から手を付けるのは有効な戦略だと思います。
 ただし、回答する箇所を取り間違えたりしないようにする必要はありますから、要注意です(Laptop受験なら、全部をコピペできるので、最終確認のフェーズがあれば安心です)。
July 2019 カリフォルニア州司法試験結果のリリース
日本時間の11月16日(土)午前に、2019年7月試験の合格発表がありました。
本日現在では受験者のみがサーチできる状況で、明日以降に外部に合格者がリリースされる予定です。
合格された方、誠におめでとうございます。残念な結果であった方も、まずは挑戦自体を誇りに思っていただき、次の機会で奏功するように祈念しております。

リリース内容は以下のとおりです。
State Bar of California Releases July 2019 Bar Exam Results

受験者(受験完了)7764人、合格者は3886人、受験者中50.1%の合格率で、2017年の水準に戻ったとされています。
合格率が上昇したことは、良い情報ですね。
初回受験者の合格率は64.0%、リピーターは26%で、再受験者には依然厳しい状況ですが、4人に1人なら希望は見えます。

問題は、試験直前に、間違って出題科目がカリフォルニア州のロースクールの校長宛に送信されてしまったことで、全受験生に同じ情報を知らせることになった、という前代未聞の事件があったことです。
私も驚くとともに、少しでも周知されるよう、本ブログで投稿していました。
July 2019受験者の方、電子メールを確認!=出題科目の流出について

その科目早期リリースが試験結果に重大な影響を与えたかどうかについて、分析調査をしたが、問題は認められなかったと結論付けられています。
その結論に驚きはなく(いまさら問題があったことにはならないでしょう)、そのために第三者に調査させることも想定されたことです。
ただ、くまなくみたわけではないですが、分析の仕方は採点があったあとの”数字”を過去や全国数値と比較して検討されたものでしかないのは、残念です。
早期リリースでスコアに差があったかどうかといっても、科目だけですし、試験の採点基準は各回で協議の上で設定されますから、その結果としてのスコアだけでは、影響があったといえるかどうかは決して十分な材料ではないでしょう。

受験者が問題視しているのは、公平性です。全員に同じ情報がわたったとされるわけですが、一部受験者が1日以上前に情報に接していた可能性があること(否定されているようですが、どこまで検証したのかは?)、そもそも情報に接することができずに受験した人が一定数いるはずであることが、問題です。
特に、日本から試験のためだけに渡米される受験者の皆さんの少なくない範囲の方が、直前期はネット接続をせずに集中するとおっしゃっていたのが思い出されます。PCのセキュリティ確保や、雑音に惑わされないことなどを意図してのことです。
情報に接しなくても合格する方はいるでしょうし、情報に接しても合格できないことがあります。問題は、国家資格を得る試験で、受験者の公平性が、試験出題側の問題で害される可能性が生じたということです。実際の受験者をサンプリングして、その受験者が知っていたかどうかを抽出調査することもしないで、数値だけを見ていても、この公平性は検証されないのではないでしょうか。
私が受験者のときも、直前2日、3日に本当に集中して最後の仕上げ、見直しをしており、それが試験結果に大きく影響したと思っているので、何日前の何時にその情報が見られるかどうかで、準備の質や確認の回数が大きく変わってしまうでしょう。それは公平とは思われない環境だと思えてきます。

私自身、カリフォルニア州弁護士で、調査会社に150万円くらい払ったというので、色々関心は寄せていますが、受験者の方が納得できるように説明する責任があると思います。
あとは万一に備えて、これから受験される方は、直前期であっても試験委員会からのメールを確認するようにするのが、デフォルトの作業になるでしょう。
第72期司法修習生の指導担当弁護士として
たまにブログを読んでいるという方から、アメリカの司法試験の話しかしないのですかと問われることもあります。
実のところ、前の事務所のときに開設したブログであるのと、いまはFacebookへの投稿で何かを表現する手段としては満たされてしまっている部分があり、投稿が減っているのが正直なところです。
米国司法試験の情報はやはり少ないので、目指される方にはできるだけ発信したいですし、実際にお問い合わせいただくことも多いので、細く長く投稿を続けています。

違う話題といいますと、今年は司法修習生の指導担当弁護士を務めております。
司法試験に合格すると1年間の司法修習を経て、最終の修了考試(司法試験が一回目でこれに続くといううことで、通称、二回試験と呼ばれます)をパスすれば晴れて実務法曹になれます。
その修習の期間中、司法修習生は全国各地に配属され、各地で裁判所(刑事・民事)、検察庁、弁護士事務所と、合計4箇所に2ヶ月弱ずつ実際に配置されて指導を受けることになります。
弁護修習は、各地の弁護士の中から、一定の経験年数や業務内容等を参考に、弁護士会から委嘱を受けることになります。

そういう指名を受けること自体、光栄なことですが、果たして自分に務まるものやらと不安がありました。
当事務所にはアソシエイトが2名おりますし、事務職員も含めて日々色々な相談や確認があります。事務所の規模が決して大きくない中で、事務所の代表者としては所属人員1人ずつの能力を向上し、パフォーマンスを最大化しなければなりません。その中で、司法修習生にきちんと時間を割いて、心を配ることができるのか、自分のキャパシティの中で対応できるかどうか、心配になるのは当然のことだろうと思います。

最終的にはお世話になった先輩に言われたこともあり、お受けすることにしたわけですが、司法修習生にも恵まれて、終わってみればあっという間の楽しい経験となっています。他の単位会でどうなっているのか分かりませんが、私は2人の司法修習生を受け持って、各2ヶ月弱の期間、可能な限り案件の検討、書類の作成、打合せや裁判期日への同席をしてもらいました。私自身は東京をはじめ遠方への出張も少なくないので、アソシエイト弁護士にも適宜協力してもらいながら、事務所全体としてサポートをしたつもりです。当事務所で指導した司法修習生が読んでいる可能性もあり、物足りないと思われているかもしれませんが。。。

指導を担当する弁護士には、弁護士会でガイダンスが実施され、基本的なルールや注意事項の確認は可能なのですが、実際に日々どうするのかは誰も教えてくれません。案件の偏りがないように、指導担当とは別に担任の弁護士さんがヒヤリングをしてくれたりするのですが、基本的な日常業務は自分自身で判断しなければなりません。そのときの指針になるのは、結局のところ自分が18年前に体験した司法修習生のころに受けた弁護修習でしかありません。
私の体験については、手元の結果簿を見ながら、以下のとおり感想を書いたことがありました。

司法修習の風景~実務修習・弁護

あのときに受けたほど充実した指導を提供できたか、自信はありません。期間もかなり短くなり、やれる範囲も小さくなったかもしれません。しかし、私が担当した司法修習生たちは、ゼミで受け持った人たちを含め、既に一定の知識を獲得しており、意欲もある人たちでしたから、私が何か教えるというより、体験する機会をできるだけ与え、こちらが思うこと、感じることを口にして、考える機会を持ってもらうことに集中しました。
すると、面白いことに、私やアソシエイト、スタッフに至るまで、一緒に悩み、考える機会を逆にもらえることに気付きます。自分の仕事の中身ややり方について、部外の人から意見を呈されること、特に、実務に出る一歩手前の瑞々しい感性に触れることは、私たち自身の考えを深め、技術を高めるのにも役立っているように思います。

いろいろな司法修習生と仲良くなって、話す機会があると、彼らから「なぜ先生は指導担当をされているのですか」「指導担当をされることは何かメリットがあるのですか」と素朴な質問を受けることがあります。そういうとき、決まって「確かに、君たちと話したりしている時間を仕事に割いたら、儲かるかもしれないね」と茶化すことが多い気がしますが、実際のところ、司法修習生を受け入れる責任感が事務所全体として生まれるように思いますし、形にならないメリットがあるように思います。
また、彼らが来ているときにも話したことですが、司法修習生個人ごとに、得も言われぬ縁のような力が働いて、実に多彩な相談や依頼が集まるような気がしています。あまりその手の話は信用していませんけれども、いろんな人が持っている運気はあると感じているので、彼らが持っている力なのか、はたまた彼らを受け持っているという私自身の気合なのか、様々な面白い案件を受けることができるのも、隠れたメリットだと思います。

司法修習全体として見ると、法律以前の礼儀作法がなっていない人がいるとか、司法試験に合格したかどうかも疑わしい知識レベルのものがいるとか、厳しい意見もあります。確かに、私が受け持った修習生たちは、たまたま人格・識見とも優れた人たちで、運が良かっただけかもしれません。ただ、時代が変わり、制度が変わっても、修習生という特別な時期に実際に仕事をする姿を見せるという実務修習のあり方は、大学や大学院では体験できないものですし、そうであるべきだと思います。

スケジュールとしては、10月・11月の時期に短期間、ホームグラウンド修習ということで指導を受けた弁護士事務所に戻る機会があります。そのときに再会できることはもちろん、二回試験を無事にパスして実務家となった彼らと再会できることを、心待ちにしています。