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 前川 直輝

Author: 前川 直輝
最終学歴 京都大学法学部
司法修習 54期
カリフォルニア州弁護士
Maekawa国際法律事務所・代表弁護士
https://maelaw.jp/

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連休初日、おおむね良い天気で、出だしは好調といったところでしょうか。
私は懲りもせず昼から事務所に少しだけ出ましたが、いつも混むことのない時間帯の電車が人でいっぱいでした。
遠出の旅行客は国内・国外とも減少しているようですが、ともかくも人が外に出て動くというのは良いことですね。

さて、これまで注目してきた暴言警部補ですが、判決が出ました。
当日、同じ時間帯に大阪地裁で自分の事件の弁論があったのですが、この事件の傍聴券配布予定でしょうか、掲示板に被告人の氏名と事件名などが張り出されていました。

取り調べ中「殴るぞ」 暴言の警部補に罰金刑 大阪 求刑上回る

2011/4/28 15:45
 任意の取り調べ中に暴言を吐いたとして、脅迫罪に問われた大阪府警東署警部補、高橋和也被告(35)の判決公判が28日、大阪地裁であり、岩倉広修裁判長は「警察捜査に対する信頼が大きく損なわれた」として、罰金20万円の求刑を上回る罰金30万円を言い渡した。

 判決理由で、岩倉裁判長は「取調室内という密室で、本来助けを求めるべき警察官から脅迫された被害者の精神的苦痛は大きい」と指摘。「おまえの人生むちゃくちゃにしたるわ」などと暴言を吐いた高橋被告の取り調べについて「虚偽の自白を生み出す温床になり、到底許されない」と厳しく批判した。

 また求刑を上回る量刑について、同裁判長は「警察捜査に対する信頼が大きく損なわれ、刑事責任は軽視できず、懲役刑の選択も考えられる」とした上で、社会的制裁を受けている点などを挙げ「法定刑の上限とするのが相当」と結論付けた。

 判決は、府警の責任についても言及。同裁判長は「違法な取り調べが行われないよう監視する体制が構築できておらず、事件を誘発する一因となった」と組織内部の意識や体制についても非難した。

 判決によると、高橋被告は昨年9月3日、遺失物横領容疑で取り調べた会社員の男(35)=窃盗罪で起訴=に「殴るぞおまえ。手出さへんと思ったら大間違いやぞ」などと脅迫した。


これまでこのブログでも取り上げてきました。事件経過の概略は以下の記事でもまとめたとおりです。
検察官は警察官に甘いのか?~大阪府警の取調べ室における暴言問題
結論は、脅迫罪で、求刑は20万円だったが、判決は上限いっぱいの30万円だったということです。

私は被告人、被害者いずれにも直接関与していないですが、未だにはらわたが煮えくりかえる状況です。
2点だけ、指摘しておきます。
第一に、検察官の求刑を超えた判決だということを、大阪府警だけでなく、大阪地検もよく身にしみて受け止めるべきです。刑事裁判では、判決の前に、検察官が被告人に対してどのような刑が相当か、論告という意見を述べ、その中で検察官として考える相当な刑罰の意見を含めます。これが求刑というもので、従来刑事裁判の判決は、求刑の七掛けとか、八掛けだと言われていました。
これが、検察官求刑を超えた判決が出てしまうと、要調という、検察庁内で上司によるチェックが入ります。
平たくいうと、担当検察官が考えた量刑が低すぎたのではないか、という検討が為されるわけです。

刑事訴訟法上、求刑が判決を拘束することなどはありません。ただの目安でしかありませんから、その半分にしてもよいし、これを上回ることも可能、無罪を争って無罪判決が出れば検察官が懲役15年を求刑しようがゼロなわけです。
しかし、実務上、検察官は単に被告人を懲らしめるというだけではなくて、公益の代表者で刑事裁判の専門家ですから、徒に重い刑を求めるのではなく、事案の実体に合った刑罰を評価して求めるべきだとされてきました。
ですから、裁判官も検察官求刑を一定の標準として判決に反映させてきたわけです。

今回の暴言警部補は、10万円だけですが、求刑を上回る判決が下りました。
そのことの意味を、よく考えるべきです。
大阪府警はどうしようもないので期待すらしていませんが、大阪地検は猛省をすべきでしょう。

まず略式裁判で終わらせようとして、大阪簡裁で拒絶され、正式裁判になったこと。
付審判請求で、脅迫罪ではなく、特別公務員暴行陵虐罪という重罪に当たると裁判官に指摘されたこと。
求刑を上回る判決が出たこと。

このブログをご覧の、司法制度に関心のある方ならおわかりだと思いますが、要するに裁判所が言いたいのは、検察官さん、警察官が警察としての仕事の中心である取調べで、単に脅したというに止まらないようなひどいことをしておいて、略式罰金だとか、20万だとか、寝ぼけたこと言ってないで、しっかり調べて罰しなさいよということです。検察が警察をかばうという図式だということを、被害者本人、被害者側代理人、マスコミではなく、裁判官が複数指摘したことは、とんでもない刑事司法における醜態だと言わざるを得ません。
特捜部の一連の証拠改ざん事件でさんざん批判に晒されていた時期に、よくこんな、プロ意識に欠ける仕事をするなぁとあきれます。

一部には被害者の属性に問題がある、とか何とか指摘があるかもしれません。しかし、取調べ経過における犯罪である以上、その経過を検討すべきです。被害者に嫌疑があるとかないとか、そういう話ではなく、権力の行使に誤りがあってはいけないということです。殺人で有罪確実な被疑者だからといって、柔道場で絞め技をかけていいはず有りませんよね。取調室で、弁護士すら立ち会えない状況下で、人生をめちゃくちゃにすると言う意味を、よく分かっていないとしかいえません。なぜ一般人が、「特別公務員暴行陵虐罪」に該当することがないのか、その犯罪が別で設けられている趣旨を、検察官は分かっているのでしょうか。

第二に、以上の話に関連しますが、公務員権力犯罪と検察官が「協力」した際の「裏技」です。
本件の判決の前に、付審判請求というものがされました。
公務員等の不正に関わる犯罪について、検察官が不起訴などにした場合に、それは起訴すべきだという請求を被害者などがすることのできる手続です。
最近では、警察官の発砲事件について不起訴とされたものを、被害者の付審判請求により正式裁判にかけられたという例がありました。
今回の問題でも、被害者側は付審判請求をしました。
裁判所は、この警察官の行為は、脅迫ではなく、特別公務員暴行陵虐罪にあたる、と明言しました。
それ自体画期的なことではあったのですが、問題は、これに先だって検察官が暴行罪で「起訴」していたということです。
付審判請求で、裁判所が請求を認めた場合、強制的に起訴されたことになるのですが、同じ事件で2度起訴することは二重起訴となり、認められないのです。
今回、検察官は先に暴行罪で起訴していました。ですから、いくら特別公務員暴行陵虐罪に該当するとしても、2度目の起訴は認められない、となったわけです。

取調べにおける暴行、脅迫について、この手法を悪用すると、付審判請求の意味をなくすことができてしまいます。制度的な手当が必要だと思います。

もちろん、検察庁は、悪用したなんて言いません。法令に基づき、適正に業務を遂行した、と言い放ちます。
しかし、何罪に問うのか、は検察官としての根本的な素養を反映するものです。
今回の裁判所の意見を、素直に受け止めてほしいものです。