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Author: 前川 直輝
最終学歴 京都大学法学部 司法修習 54期 カリフォルニア州弁護士 Maekawa国際法律事務所・代表弁護士 https://maelaw.jp/
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弁護士と話し方。 |
あっという間に9月も終わりですね。 今月は慌ただしかったですが、長くかかった事件が終わったり、新しいご依頼があったりで、充実していました。
さて、最近このブログ、更新の頻度も気まぐれなのにも関わらず、一定数の方がご覧くださっているようです。 ありがたいことです。 ここ1週間くらい、「弁護士 話し方」のキーワードで検索される方が急増しています。 同じ方なのか、違う人がたまたま重なっているのかが分からないので、大変興味深いです。
キーワードから連想するのは、以下の2つです。 一つは、「弁護士が話す作法」、もう一つは「弁護士に対する話し方」です。 弁護士である自分には、どちらも面白いトピックです。今回は前者を取り上げます。
話すことは、弁護士のあらゆることの基本です。 (ちなみに、障がいのため構音できない方もいらっしゃると思いますが、手話やそれ以外の方法も含みます) 弁護士は依頼者からの相談をきっかけに、事実関係を調査し、法令に当てはめて、主張を構成し、裁判官や相手方を説得する仕事です。 依頼者とのコミュニケーションがスムーズでないと十分な相談ができませんし、自分の言いたいことを筋道を立てて整理して説明できないと、誰もそんな弁護士に説得されるはずがありません。
ただ、弁護士で、話し方に注意を向けている人は、案外と少ないんじゃないかと思います。 実は、相談ごとの対応や説得において、話し方というのは大変重要で、成果に直結するものだと思います。 この辺は、話し方口座が世の中に多数ありますし、話し方についてのプロフェショナルが他にいるから、その人たちに詳しいことは譲らないといけませんが、私が意識しているのは次の点です。
1.大きさ。 その場にあった適切な音量を工夫する必要があります。 弁護士は、事務所の打ち合わせ室から、大きな法廷、また多数の人を前にした講演の壇上など、様々な機会で話すことがあります。 打ち合わせ室で相対しているので、ものすごく大きな声で話したのでは落ち着けないでしょうし、 大勢の前、広い場所で小さな声では、迫力にかけるし印象に残らないでしょう。 一概にはいえませんが、弁護士は基本的には声が大きい人が多いかもしれません。遠くの方から歩いてくる人の笑い声で、あの人だと見分けがつくくらいの人もいます。 それはそれでひとつの個性、アピールポイントだなと思います。 私自身は、音量は足りないかなと思います。ですから、ここぞというときは、お腹に力を入れて、顔をあげて話すようにしています。
2.スピード。 ゆっくり話すように心がけています。日本語でも、英語でも同じです。もともとはゆっくり、おっとりとしゃべる方なのですが、いざ仕事をしだしたり、緊張すると、途端に早口になって何を言っているのかきちんと伝わらないことがあります。学生時代、ESSというクラブでスピーチをやったときにも言われましたが、まずは聞き手を意識して、聞いている側が気持ちよいスピードを維持することが大切だと思います。 その上で、我々は基本的に難しいことを話すのですから、相手が順番に理解し、筋を終えるようにゆっくりと話す必要があります。 欲をいえば、重要なポイントを記憶にとどめられるよう、緩急を付けられればベストですね。
3.滑舌、とくに語尾までしっかり言い切ること。 滑舌は私はあまりよくないかなと思います。ごにょごにょとしゃべるのが元々だと思っています。 ですから、電話や面談で話すときは、その前に口の体操をしてから話すようにしていますし、朝一番に洗面所で顔を洗ったときに口を大きく開けたり声を出したりしています。 実は前の勤務先のボスや先輩の中に、喋り方に注意を払っている人がいて、その人から直接聞いたわけじゃないのですが、よく観察していると、意識して語尾まで言い切っているのがわかりました。他の要素も相まって、とても落ち着いて、それでいて自信をもって聞こえるんですね。 それ以来、語尾までおろそかにならないよう、集中するようにしています。
4.声の高さ・トーン。 これだけは新人のころからよく注意していました。新人は20代半ば、舐められる立場ですので、せめて電話などの交渉では説得力を持ちたいところです。ですので、日頃の会話のときと比べて、何段階かキーを低めに設定してしゃべることを心がけました。おかげで、20代のころから30代どころか40代に思われたものです。 音楽でもそうなのですが、やはり弁護士の業務の性質上、甲高い声というよりは、どちらかというと低めの落ち着いた声のほうが信頼感を与えられるのではないかなと思います。 もちろん、各自絶対的に個体差はありますから、あくまでその人の中での高低を意識すればよいと思います。
5.「話さない」こと。 疑問に思われることもいるかもしれませんが、私が一番大事じゃないかと思うのは、「話さない」、つまり相手の話をよく聞くことです。 私たちの仕事は、必ず依頼者や相手方、関係者が把握している事実関係、証拠関係を基礎にします。そこから離れて仕事などできません。まずは相手の言うことをよくよく時間をかけて聞くことです。 また、例えば尋問では、できるだけ相手に語らせなければなりません。その人が信用できないじゃないかと指摘するには、自己矛盾か他との整合性のなさを突くしかありません。そのためには、できるだけその人がしゃべることの量が多い方が良いに決まっています。 なかには、なかなか本筋に入らないとか、本筋に関係ないように思えることも多いでしょうから、途中で割って入って整理したくなる気持ちになることもあるでしょう。尋問で相手が口を滑らしたと思った瞬間、よしきたと攻めていこうとするかもしれません。 しかし、関係のないようなことをしゃべっているようで実は重要なことが含まれていたりしますし、何より話したくて、相談したくて来ている人には、十分話してもらう必要があると思います。 また、相手が口を滑らせた、と思ったら、そんなことは指摘しなくても尋問なら調書に残っているわけです。「どうして」「なぜ」と追いかけすぎることは、相手に弁解、言い訳の機会を与えてしまうので、尋問の専門技術によれば御法度の行為のうちの一つです。 聞くことが、最大の会話述だと思います。 いかに話さず、いかに聞けるか。この仕事の基本だと思います。
尊敬のできる依頼者から先日教わったことがあります。 なぜ人間は目が二つあるのか。それは良く物事を観察しなければならないから。 なぜ人間に耳が二つあるのか。それは他人の意見を真摯に受け止める必要があるから。 なぜ人間に口が一つしかないのか。口は災いのもとで、慎むくらいがちょうどよいから。 この話を聞いたときに、なるほどと思いました。
理想的には、話す量より聞く方が多く、少ない言葉の中に、心地よさ、わかりやすさが随所に含まれている。 そんな安定感抜群で、魅力的な話し方ができればいいなと、思っている毎日です。 まだまだ修行せねばなりませんね。
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