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Author: 前川 直輝
最終学歴 京都大学法学部 司法修習 54期 カリフォルニア州弁護士 Maekawa国際法律事務所・代表弁護士 https://maelaw.jp/
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「不動産事業参入で成功する方法」~弁護士事務所のこれから |
当事務所の業務時間は先にお示ししているとおりなのですが、私個人は本日まで事務所に出てきています。 昨年のブログを見ていても同じ状況だったようです。 テレビはほとんどつまらない特番ばかりですし、どこか遠方に行く予定もありませんから、それなら年始からトップスピードで働けるように準備をしておこうと思います。
さて、今日事務所の郵便受けを見たら、大手コンサルティング会社からのダイレクトメールが来ていました。 表題にあったとおり、弁護士・司法書士事務所が不動産事業参入で成功する、というセミナーの案内です。
弁護士が不動産事業をする、というと、今までの感覚としては、本業で十分利益ができ、蓄財ができた人が、資産運用や事務所賃料の代わりに自社ビルを立てるのをかねて、自己所有物件を保有するというパターンが基本でした。 バブルの遺産でそれで失敗したという先輩もいますが、「儲かった後に資産を保有する」という流れです。
今回のDMはそれとは違います。もちろんお金のある人も対象とはなるでしょうが、競争が厳しくなった業界で、目先をかえた事業に打って出て利益を得ましょう、というどちらかというとこれから事業を拡大していこうという年数の浅い事務所や伸び悩んでいる事務所が対象のように思います。 営業利益が2000万、初期投資が300万というと、それなりの事務所ならやってみようかと思うことかもしれませんね。
全く違う事業に打って出るのではなく、既存の顧客との関連で不動産の任意売却を自社で行うというスキームのようです。私たちは自己破産、相続、離婚などを処理するときに、典型はオーバーローンのケースですが、依頼者の不動産を売却する必要にしばしば迫られます。 基本的にこのような不動産売買の仲介を第三者に依頼して、自分の本来の事業とは別に対応してもらっています。 これを自分で不動産任意売却の事業部門を立ち上げて進めることで、一挙両得のようなところを狙おうというのだと思います。
破産、相続、離婚等で任意売却処理を多数扱っている事務所では検討されるのかもしれません。 また、このようなワンストップサービスができるからということで、これを売りにして破産・相続等の新規受任につなげるというマーケティングにも繋がる可能性はあるでしょう。 ただ、私自身は今のところやろうとは微塵も考えていませんし、不安を抱えて気になっている人も注意をしたほうがよいことがあると考えています。
1.自分の受任事件を冷静に分析すること。 このサービスは、既存の受任事案と関連させた不動産仲介の業務ですから、事案の質量分析が必要です。 自己破産等の事案がどれくらいあるか、またその中で不動産を売却した事案がどれほどあるのか、を冷静に考えてみるべきでしょう。 当事務所は、5年前の開業年次は確かに倒産等の事案が多かったですが、最近は敢えて積極的に受任していこうと考えてはいません。競合が激しい分野ですし、その中で先に出ようとするとコストもかかります。何より既存のお客さん、顧問先へのサービスが疎かになる可能性もありますし、自分たちの売りではないと判断しています。 もちろん適切にサービスができる自信はありますから全く取り扱わないわけではありませんが、例えば今年新規に受任した破産等の案件は、私自身は10件にも及びません。破産管財事件も、昨年までとは違って、さほど多くはこなくなりました。 しかもその中で不動産を所有していて、売却が必要になった案件はどれほどかというと、数件です。 同じように、離婚事件も相続事件も受任していますし、不動産が絡む事案もありますが、やはり年間数件です。 少なくとも私が受任している現在の業務環境の中で、意味のある新規事業だとは思えません。
2.サービスにおける収支を具体的に予測すること。 セミナーに行ったのではないので、軽々に指摘できませんが、要は不動産売却の仲介をするわけです。 売上は、仲介手数料となるはずです(それ以外の費用を請求できることがあまり考えられないです)。 不動産の仲介手数料は、宅建業法で定められていて、以下のとおりです。
200万円以下の部分 - 100分の5(5%) + 5%の消費税 200万円以上 ~ 400万円以下の部分 - 100分の4(4%) + 5%の消費税 400万円以上の部分 - 100分の3(3%) + 5%の消費税
普通一般家庭が所有する不動産は3000万円から5000万円の購入価格ですが、現実の市場で売買される場合はその半分程度の価値に下落することも珍しくありません。 仮に1000万円の案件を仲介し成約できれば、36万円ほどです。 10件成約できたとして年に360万円ですね。なかには2000万、3000万の案件があったとして、500万くらいでしょうか。
売上はただ普通にしていれば立つわけではなく、コストがかかります。 少なくとも1名、宅建業資格者が必要です。物件の調査はそんなに簡単なものではありません。 詳細な報告書、査定書を作成し、金融機関に当たる必要があります。 しかも売るわけですから、買い手を探す必要があります。そこは外部業者と提携して見つけてもらうのかもしれませんが、そう毎回見つかるものでもありません。任意売却案件は競売に同時にかかっている場合も多く、期限がありますから、市況が回復したら、と悠長なことは言っていられません。 オフィスは同一でハード面は節約できたとしても、ソフト面では相応の投資と継続的な費用負担が必要となります。 専任スタッフを1名月額20万円で雇用すれば240万円。そのほか間接費用を考えてどれほどコストがかかりそうか、シミュレートが必要でしょう。 果たしてそんなにうまく行くのか、普通に考えれば疑問でしょうね。確かにうまくやれば大幅な赤字は出ないかもしれませんが、言われているほど高額な収入に繋がるかはちょっと疑問です。 どなたかセミナーに行かれた方に教えて欲しいくらいです。
3.不動産を売買することはそれほど簡単ではないこと。 不動産市況は、こと関西に限っていえば、まだまだ冷え込んでいます。 私が扱っている数少ない売却事案でも、例えば法人が保有していた土地建物が結局売却できず所有権放棄される、といったことはしばしばあります。 売主側の仲介だから、という話はあるかもしれませんが、結局買い手側の不動産業者の腕次第ということもあります。それに、不動産が動くタイミングというのもあります。恒常的に売れていくわけではありません。 そこはネットワークでカバーするべきことでしょうが、そんな話にまでなると、完全に不動産屋さんと同じような努力が必要になってくる可能性があります。 注ぐべき努力は中途半端ではいけないでしょう。
4.リスクが無視できないこと。 不動産仲介も、それ単体でリスクがあります。典型は物件の瑕疵や、説明の不十分といったところです。 本業でも実に多くのリスクがあるというのに、不動産事業でさらにリスクを負えるほどの物心の余裕は私にはありません。 それに、弁護士倫理の観点からしても微妙なケースはあるでしょう。自己破産のオーバーローンの事案で、売主側を仲介するというのならまだ楽ですが、しかし、不動産仲介をする以上成約に向けて利害が直接に生じます。当然売りたいという動機は、弁護士業務をやっているときとは比べ物にならないくらい高まるでしょう。 担当スタッフも勢い努力をしなければならないし、無理が生じることだってあるかもしれません。 さらに相続案件や離婚案件では、場合によっては対立当事者からも仲介の依頼を受ける必要が出てきます。物件が常に依頼者単独所有というのでもありません。それに、対立当事者がいる事案ではその物件がいくらで売れるかが、本来の案件の処理の帰趨に影響を与えるのが通常です。 もっと高く売れたのではないかとか、なぜそんなに手数料とるのだとか、理由のあるなしに関わらずクレームが多数考えられるのではないでしょうか。 弁護士業じゃなく、仲介業務の方だから問題ないしありうるリスクだといって、切って捨てられるかは疑問があります。
5.あらゆる不動産仲介業者が競合他社となること。 既に任意売却物件専門の業者は山のようにあります。 大手会社も独立の部門を作るなどして対応していますし、既に担保権者となる金融機関と提携している業者もいます。いくら案件受任の契機が弁護士業務にあって硬いとはいえ、依頼者にも選ぶ自由はありますし、その巧拙は細かい書類準備も含めれば、非常に差が大きいでしょう。 弁護士事務所も厳しいですし、不動産業界だって甘くはありません。それらを結合させて独自の業務サービスを提供する、というのは新しい取り組みですが、いくつか出てきたら珍しくもなくなるかもしれません。
6.コンサルティング会社が必ず儲かるようになっていること。 身も蓋もないですが、一番儲かるのはコンサルティング会社です。 セミナー手数料の収入は結構な額になるでしょう。 個別に今回のスキームのコンサルを受ければ一件数百万円単位で売上が立ちます。 しかも、コンサルティングをするといっても成果を保証することは通常ありませんから、うまくいかなくても自己責任となります。弁護士が騙されたーとわめいたところで、一般消費者とは違いますから、主張が通るとは思われません。 DMを巻くということは、少なくとも情報提供者側は宣伝費用以外は絶対に損をしないことになっているわけです。 もちろんうまくいって2000万円を得られればすごいことですし、その見込みもあるかもしれませんね。ただ、いきなり初年度から到達するわけではないでしょうし、目標達成までコンサル会社に支払う金額があれば、新人弁護士を雇用することは十分できるでしょう。
以上は私の考え方、私のおかれた環境での評価です。 特定のコンサル会社やサービスを貶すものではないのです。 きっとうまくやれる可能性もあると、そこは私も本当に思っています。 弁護士法人が寿司屋を開くくらいの時代、何があってもそれほど驚く話でもないでしょう。 ただし、コンサルティング会社が不特定多数の潜在顧客に勧める、ということは、既にパッケージになっているということです。 先日紹介した瀧本先生の著作にならえば、おそらく「コモディティ」つまりありふれた規格品になってしまうもので、すぐに陳腐化してしまうということです。
私は専門家サービスは、その人独自にできる、その人でなければならないサービスを提供すべきであり、そこに付加価値を作り出し、顧客に理解してもらうのが、まずやるべきことだと思っています。破産、相続といった、現在では「コモディティ」化した取り扱い分野でも、提供できるサービスの質は、視点を色々と考えると、実はすごく差を出せるものだと思っています。付加価値を付けるのは自分自身であり、自分の個性や才能というのは、誰でも持ち合わせているもので、違いがあるとすればこれを分析して自覚し、表現できるかどうかにあると思います。 本業で差異を出すことに頭を使えば、他の門外漢の事業に時間を費やしている暇はないだろうなというのが、私の感想です。
こういう考えるきっかけを作ってくれるという意味では、コンサル会社のDMなどは大好きですし、たまに研修を聴きに行ったりもしています。本当に否定的に考えているわけではなく、意見や方向性が違うというだけですから、誤解されないようにしてくださいね。
そうはいっても2000万も増収したら、そりゃあ嬉しいだろうなーと、年末ジャンボも買わないで夢想する年末のひとときでした。 実際にセミナーに参加される方のご意見や感想を聞いてみたいものです。
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