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 前川 直輝

Author: 前川 直輝
最終学歴 京都大学法学部
司法修習 54期
カリフォルニア州弁護士
Maekawa国際法律事務所・代表弁護士
https://maelaw.jp/

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無罪判決の理由
ずいぶん更新まで間が空きました。失礼しました。
書く時間がなかったわけではなく、単に無精としか言いようがないです。12月27日で仕事納めで、休暇に形式的に入りましたので(という表現がいささか悲しいか?)、久しぶりに更新しておきます。

さて、前回が裁判員裁判の意見交換会の話でしたから、今度は中身の話をしましょう。
無事に無罪判決を得て、確定しました。

平成25年9月27日大阪地方裁判所判決
覚せい剤取締法違反、関税法違反被告事件
会社員女性と女子大学生が共謀してアフリカから覚せい剤約1.8kgを輸入したとされた事案です。
私は大学生の方の弁護人を務めました。
実は、この事案は逮捕・起訴のときに実名報道をされました。しかし、無罪判決後は静かに元の生活に戻りたいということで、名前など個人の情報は判決報道から省かれています。
インターネットをみますと、報道機関の逮捕当時のニュースから、一般人による記事を含め、偏見に満ち満ちたひどい記事が残っています。いちいち取り上げませんが、彼女らの名誉を守り、また文字通り血の滲むような努力を誇りに思うため、許される範囲で記事に残しておきます。

元々、この事案は、女子大学生が先に逮捕され、次に会社員の方が逮捕され、それぞれが起訴されるに至ったものです。
大学生が逮捕され、別の弁護士さんが被疑者国選弁護人に選任され、全面否認で無罪だという確信のもと複数の弁護士によるサポートが必要だということで、ご縁があって私にお声がかかりました。
あらためてこれだけは言っておきますが、この事件は起訴するべきではありませんでした。実際、起訴されるかどうか判断する時点における証拠資料と、判決のときとを比べて、決定的に違うものはありませんでした。
また、どっちかわからないグレーだけどたまたま無罪になった、という事案ではなくて、本当に事実として無罪の事案です。

そういうわけで、無理に起訴をされた事案ですが、薬物の輸入は重大犯罪ですから、裁判員裁判の対象となり、1年以上の時間がかかりました。無罪判決になりましたが、私たちからすれば当然のことで、だからこそ失敗したら私たちの責任ではないかと胃が痛くなる日々でした。

無罪になる理由として、いろいろな話をされますが、私が尊敬する刑事弁護人の先輩のお話で「無罪6原則」というのがあります。依頼者たちの静かな生活を騒がしくしない限度で、この事件との関わりで引用していきましょう。

1−筋がよい(事件の内容)
 事件もいろいろな種類がありますが、覚せい剤密輸事案というのは、無罪判決が多い累計のものです。
 知らなかった、という言い分をする本人に対して、有罪判決を下すに十分な立証をするのは、内心の問題であるだけに難しいといえます。
 知っていて、それでも構わないと思った、というには合理的な疑いが残る、とすれば無罪だということですね。
 そして、覚せい剤を密輸しようとしたアフリカの密輸組織がおり、日本でそれを受け取ろうとしていた違法集団がいたのは間違いないが、実際にこの事件で出てくる証拠では、むしろ彼らは違法薬物の輸入だということが分からないようにする説明などが巧妙に仕組まれていました。さらに大学生や家族、その他関係者との間のやりとりのほとんどがメールなどで残っていて、それをみれば知っていたはずがない、ということが言いやすい事案でした。
 事案の種類、実際の証拠関係からして、筋がよかったといえるでしょう。

2−玉がよいこと(依頼者本人)
 大学生・会社員ともに、知性を備えた女性でした。
 表現力、理解力が高いというところは実際に仕事をしていてとても助かった部分ですが、それ以上に精神の強さは、私たちの想像を上回るものでした。
 彼女たちはどちらも関西とは地縁がありませんでした。遠く離れた大阪の警察署、拘置所で、1年以上もほとんど誰とも会えず拘束されて、それだけでも十分堪える話です。
 逮捕されたのは暑い夏、起訴され手続きが始まっていったのは寒い冬、周りの友だちが大学を卒業し、社会人として活躍するなか、無罪だと信じていても、裁判でどうなるかは確証がありませんから、その不安たるや想像を絶するものがあります。
 それでも、ずっと前向きで、時に疲れた顔をする一回り上の弁護士に、身体に気をつけて等と気遣いを見せてくれる、そういう素敵な人間でした。
 無罪を得るまでには時間がかかります。その間、有罪になるかもしれない、刑務所に何年も入らなければならない、そういう不安、さらには同じ警察署、拘置所内で実際に犯罪をした人たちと暮らし、外で自由にしていればあり得ない生活上の不自由、それらをすべて耐える精神力が必要です。
 そして、私たち弁護士と共同して証拠を検討し、説明を考えるといった準備作業をする力が必要です。
 玉がよかった、ということが、個人的にはこの事件のほとんどすべてではないか、そう思います。

3−優秀な弁護人
 私のことはおくとして、いずれの依頼者の弁護人とも優秀でした。
 大学生には私を含め2人、会社員には4人が弁護人に選任されました。早い段階で二人ともが同じ理由で無罪だという方針になり、合同で会議をし情報交換をするということができました。
 既に指摘したとおり、メールなどの連絡ツールの集約・分析がこの事案の要点だったのですが、それを正確に素早く整理してくれる弁護士。
 豊富な刑事弁護事件経験のもと、鋭い指摘を繰り返し分かりやすい表現をする弁護士。
 ついこの間まで大阪地裁の法廷の壇上にいて刑事裁判の経験が豊富な弁護士。
 大阪で刑事事件といえば必ず名前のあがる私の同期と、私を誘ってくれた元所属事務所の弁護士は、いずれも精緻な証拠の検討と、説得的な論理、何より絶対に何が何でも無罪にするんだという気迫と、情熱に溢れ、立派な主任弁護人でした。
 みんなの経験や得意分野などが、実に見事にかみ合った弁護チームであったという自負はあります。

4−手抜き検察官あるいは公正な検察官
 検察官についてはあまり触れないようにします。
 少なくとも手抜きであるとは思いませんし、一所懸命仕事をされている方たちだと思います。
 ただ、この証拠関係では、公判を維持することはかなり難しかったのではないかと思います。
 起訴するかどうかの判断で、検察庁内でいろいろ検討があり、いろんな人の意見があったのかもしれませんが、起訴した時点で、積極的に有罪を裏付ける証拠は乏しい(というよりほとんどなかった)ので、自然と筋がよくなってしまったとはいえます。

5−よい裁判官
 裁判員裁判のこの事案は、裁判官が3名と、一般人の裁判員6名、さらに補充裁判員の方と、多くの判断者がいました。
 裁判員の方たちがどういう人たちだったのか、また、事件を通じてどういう印象をもったのかははっきりと分かりません。ただ、法廷での発言などを聞いている限り、きわめて常識的で公正な判断をされる方たちだったのだろうと思います。
 裁判官も、詳しくはわかりませんが、おそらく証拠関係を理解する限り、この事案は無罪だという方向性は、公判の早い段階で出ていたのではないかと感じました。
 裁判長は、覚せい剤密輸事案などの刑事裁判に関して論文をかかれるなど意欲的で、ある意味この種事案のプロだったと思いますから、よい裁判官・裁判員に恵まれたのだろうと思います。

6−運
 私自身は、運というものは、運に恵まれる努力をした人にこそ訪れると信じています。
 裁判準備をする中で、証人となってくれた大学生の友人たちは、皆性格もよく、記憶力・理解力もあり、表現力もあって、裏表のない良い人たちでした。陰に日向に援助してくれたのは大学の仲間であり、大学でお世話になった教授の先生方でした。そのご縁でアフリカ現地情報を入手することもできました。
 家族の方は、1年以上、本当に不安でたまらなかったでしょうが、様々な準備に協力し、常に笑顔で私たちに接してくれました。”玉が良い”依頼者は、こういうご家族のもとで育ったんだなと腑に落ちる感覚がありました。
 そうした依頼者、家族、友人や大学関係者、弁護士すべての絆が固いものであったことは、不当に長い身体拘束にもめげず、苦しい公判の準備を乗り切って、無罪判決となったのだと思います。


 私にとっては2件目の無罪事案でした。ただ、無罪が弁護士の勲章であるかのように吹聴する人がいるとすれば、それは実際を理解していないと思います。
 もちろん弁護人の技術、経験、精神性は厳しく問われるのが刑事裁判ですが、それはプロ野球で3割を打つのに比べれば、真面目に努力すれば獲得できるものですし、格好をつけるのではないですが、弁護士として誠心誠意努力するのは当然のことです。
 無罪が獲得されるまでには、上に書いた6原則にもあるとおり、それ以外の要素がたくさんあります。ですから、弁護士がすごいだなんて少しでも思ったら、それは堕落の始まりだと私自身は思っています。
 前回の無罪事案(大阪地裁所長襲撃事件)のときも思いましたが、今回もまた、すばらしい依頼者、年齢問わず尊敬でき人間としても愛着の持てる弁護士の方々、その他素晴らしい気持ちを持ってくださっている関係者の皆さんと出会えたことに、ただひたすら、感謝したいと思います。

 依頼者たちは、無罪確定後、将来に向けて色々と努力している様子です。1年以上の拘束は、おそらく一般の方が想像するよりもずっと精神的・肉体的に堪えることですし、20代の人にとって1年の裁判は長過ぎると思います。
 しかし、このような結果を導くことのできる能力を備え、素晴らしい人たちに囲まれた若者には、幸せな人生を送る資格が十二分にあると思います。彼女たちの前途の明るいことを、切に願います。
 今年、実にいろいろな事案を取り扱いましたし、どれも大きい小さい関係なく、一つずつに”顔”があり印象に残っています。しかし、やはりその中でもこの事案は、私の今後の人生の中で忘れることのない体験であり、弁護士としての技術も磨かれた良い経験だと思いました。
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