FC2 Blog Ranking 前川弁護士blog 2014年02月
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 前川 直輝

Author: 前川 直輝
最終学歴 京都大学法学部
司法修習 54期
カリフォルニア州弁護士
Maekawa国際法律事務所・代表弁護士
https://maelaw.jp/

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弁護士のリスク管理~横浜弁護士殺害事件の報告書に触れて
私たちの仕事は、純粋に法律意見や分析を求められたり、講演や研修を担当するという場合でなければ、必ず対立当事者がいる事件で、どちらかの側の代理人・弁護人を務めることになります。
民事事件なら、事故の被害者と加害者、お金を貸した側と借りた側、倒産する企業と債権者、いろんなケースがあります。
刑事事件でも、被害者がいる場合は、加害者とされる被疑者・被告人の弁護人となっていれば、被害者から敵視される立場にたつことがあります。

このほど、弁護士会で、「横浜弁護士殺害事件調査報告書」という冊子が配布されました。
横浜で4年ほど前に、離婚事件の相手方が事務所にやってきて、逆上して弁護士を刺し殺したという事件がありました。
弁護士業務に対する不当な妨害事例として、特別に情報を共有する目的で、報告書が配布されたようです。

被害を受けた事務所は、弁護士2人、事務員1人の、ごく一般的な法律事務所。
離婚事件の妻側の代理人として、若手弁護士が受任して対応していたところ、相手方である夫が、妻の住所を知るためにこの弁護士のもとを訪れました。
このとき、弁護士は偶々一人で事務所におり、仕事中でした。
当然、弁護士は依頼者の居所を教えるはずがありません。
すると、夫は、3リットル以上のガソリンにライター、スタンガン、ナイフを持参しており、スタンガンで攻撃をはじめ、弁護士に抵抗されると、アウトドアナイフを取り出して、胸を強く2回指して、殺してしまったのです。

当時、私もこのニュースを聞いたときには既に独立しており、戦慄を覚えたのをはっきりと記憶しています。
報告書の内容で事案の詳細を読む限り、特別危険な予兆があったとは言えない事例だと思われました。
もちろん、何もないわけではないし、後から振り返れば、ということはあるにしても、特別な対策を講じるというほどの危険を現場で感じることができたかは疑問が残ります。
たまたま事務員が外出中で、一人で仕事をするということだって、多くの事務所では十分あり得ます。
この弁護士事務所、所属弁護士や職員に、何か落ち度があったとはとても思えません。

ガソリン、スタンガン、ナイフを持って、激昂する相手に、自分ならどうすることができたか。気が重くなります。
そして、加害者もまた刑事事件の被疑者・被告人となり、被害者弁護士と同じ横浜の弁護士さんが弁護人となられて無期懲役の刑が確定しました。その弁護人として活動されたことについても、職責の重さに、ただ頭がさがる思いです。

世の中の多くの人たちにとって、弁護士は今でも頭を使う仕事で、事務所でゆったりしていれば、そこそこの収入も得られて、とてもきれいな、エリートの仕事だというイメージはあるのだと思います。
しかし、残念ながら、事件関係者に襲われて死傷するというリスクは、弁護士をしている以上、避けて通れません。恨まれることを恐れていては、弁護士の仕事などできませんし、むしろ恨まれてでも依頼者の利益をなんとしても守り、暴力など違法な行為には断固たる姿勢を示さなければなりません。

私自身、具体的な危険は結果的にはなかったですが、殺してやる、どうなってもしらんぞ、等と言われたことは、1度や2度ではありませんし、交渉の場でそのスジの人たちに一時的に囲まれたこともあります。死亡事故の被告人の弁護人を務めたときには、鋭い目で遺族やその関係者から見られ、罵声を浴びせられたことだってあります。

私たち弁護士にとって、自分やスタッフ、家族が死傷するリスクというのは、ゼロにはできません。
大変難しいことではありますが、少なくともスタッフや部下や家族だけは、何としても守れる体制作りをしなければなりません。
そして、最後の最後は、自分自身の危険に対する嗅覚を研ぎ澄まし、常に意識を張り続けるしかないと思うのです。

この報告書は、全会員に配布されたようです。
是非、事務所で、事務職員の皆さんも含めて、情報として共有しましょう。
他にも残念ながら殺されてしまった弁護士はいますが、それぞれの同胞の命をかけた事案から学ぶ教訓は、とても大きいです。
仲間の死をムダにしてはならない、そう思います。