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 前川 直輝

Author: 前川 直輝
最終学歴 京都大学法学部
司法修習 54期
カリフォルニア州弁護士
Maekawa国際法律事務所・代表弁護士
https://maelaw.jp/

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情報管理とヒューマンエラー・奈良地検:DV元夫に住所漏らすとのニュースに触れて
現場にいる弁護士としては、色々と考えさせられる記事を目にしました。

奈良地検:DV元夫に住所漏らす 女性が国家賠償請求
毎日新聞 2015年01月29日 15時00分

 奈良地検の男性検事(37)がドメスティックバイオレンス(DV)の被害者である30代女性の住所を、加害者とされる元夫(37)側に漏らしたことが分かった。女性は元夫からの危害を恐れて引っ越しを余儀なくされるとみられ、約200万円の国家賠償を求める訴えを大阪地裁に起こした。29日の第1回口頭弁論で国側は住所が漏れたことを認めたが、争う姿勢を示した。

 訴状などによると、奈良県警が2012年2月に児童虐待事件で元夫を逮捕した。女性は県警と奈良地検から「元夫の性格を裁判で立証したい」と協力を求められ、DVの経験などを供述、警察官と検事が調書にまとめた。
 調書には女性の住所も記載されたが、女性は元夫に住所が漏れないよう繰り返し要請し、検事は住所を漏らさないと約束した。
 しかし、12年3月に元夫が起訴された後、元夫の弁護人の証拠開示請求に応じた検事は、女性の住所を黒塗りせずに調書を開示した。住所を元夫に知らせないよう弁護人に要請もしなかった。勾留中の元夫は弁護人から調書のコピーを渡され、女性の住所を知ったとみられる。【堀江拓哉】



元夫は児童虐待事件で逮捕勾留され起訴されたから、元妻の女性は事件当事者ではなさそうです。それを警察官・検察官が、元夫の性格立証の目的で、女性に協力を求め、児童虐待と直接関連のないDVの事実関係を聴取し、供述調書にした。女性から住所は絶対に知らせてくれるなと何度も申し入れており、これは今回の賠償請求でも検察官側が認めているから事実だとして、住所を見えるままで男性側の弁護人に開示した。
以上の経過で、担当検察官に落ち度があることは明白です。住所が知られただけでも苦痛であるのに、この種の訴訟を提起させられ、長々対応させられる女性の立場を考えて、国家賠償訴訟は、早期に決着させるべきでしょう。

男性の弁護人の立場ではどうでしょうか。
女性の供述調書をコピーしたのは正当な権利であるから問題ありません。ただ、住所が掲載されたままの状態で、供述調書を依頼者である男性に示したのがどうでしょうか。検察官から住所を示さないようにという要請もなかったといいますし、女性の住所部分も含めて一体の証拠資料ですから、これを依頼者に報告するのは弁護人として当然の義務とはいえます。

ただし、こんなニュースが出てからいうのは憚られるのですが、自分が同様の対応をしたかは分かりません。もちろんそのまま依頼者に示した可能性もありますが、住所を消して写しを依頼者に送った可能性があります。
自分自身、過去に被告人の弁護人であった際に同様の経験はありました。検察官のミスで、被害者の住所が墨塗りにならないで供述調書などが届いたときに、私は事件に至る経過や内容に照らして、検察官に連絡を入れた上で、依頼者に理由を説明して、住所や電話番号を抹消して資料提供したことがあります。被告人の弁護人として、関係者の住所を抹消することは法的な義務ではないですし、弁護士の倫理に悖るものでもないと思います。絶対的な正解がないですから、そこは弁護人自身のアンテナや価値観、依頼者との信頼関係の問題だと思います。

女性側で捜査協力するに当たって、事前に相談された弁護士だとしたらどうでしょうか。
どんな弁護士でも、協力するのは任意であるから構わないが、供述調書の作成に当たっては慎重な対応が必要だ、というでしょう。
書きぶりも含め、事実以上に男性を刺激しないような内容にするべきでしょうが、女性本人が自分で判断するのは難しい。参考人聴取の場に立ち会うことは求めるべきだろうし、検察官であればある程度は柔軟に対応される可能性もあると思います。
ただ、通常は、検察官に、住所は相手に開示しないでくれ、必ず抹消して謄写してくれと申し入れるだけでしょうし、それで十分なサービス水準だと思います。

自分としては、墨塗りされるべきものが生のままで開示された経験がある以上、供述調書そのものに住所を記載しないでくれと申し入れると思います。住所をどうしても記載するといのなら署名押印しません、と言って帰ってきてもらうようにするかもしれません。公判記録でも、弁護人に開示する資料としても、結局住所は隠すように求めて、対応してもらうのですから、最初から住所がなければ済む話だというわけです。

事情聴取の場で適切な対応がされたところで、供述調書という書類が作成された途端、それは証拠として扱われます。多数案件を抱えた中、検察官が各事件の弁護人から事前に証拠を閲覧・謄写させてくれと請求を個別に見て、絶対に墨塗り対応までしてくれるという期待が持てるか。特に、取調べの対応をした検察官と、裁判を担当する検察官が異なる可能性はあるし、それを補佐する検察事務官も異動などで交代する可能性はある。もちろん、検察庁内で被害者対応というものは万全を期しているでしょうが、それが実際には万全ではなかった、という体験は、ここ最近でも1度や2度ではないですからね。

人がやる以上、ミスはあり、ゼロにはなりません。我々の立場としては、法律や規則の内容を正確に理解し、捜査や裁判の実務を十分経験して把握した上で、リスクがゼロになる方策があるか模索し、ないのならそれを最小化するにはどうしたらよいか、記録を扱う人間、謄写するものの立場に立って、クライアントのために最善を尽くすしかないでしょう。

検察官のミスは極めて重く、請求額程度では全く足りないと思います。しかし、情報をめぐるトラブルや紛争は、特にインターネットやSNSの利用が当たり前になった状況で、極めて深刻な結果をもたらすのであって、他人事ではありません。企業でも、毎月のように、個人情報が流出した、従業員が会社外で資料をなくした、データの入ったUSBなどをなくした、パソコンをなくした、というような話があります。被害者になるか、加害者になるかは紙一重、誰しもが関わる可能性のある問題だという意識を共有し、ミスが減るようにするにはどうすればよいか考える必要があるでしょう。

法律専門家なら、検察官がけしからん、ひどい話だ、で終わらせていてはいけないし、一般の方にしても自分が同じ立場に立ったらどうするだろう、どうしたらよかったのだろうと考えるべきでしょう。ヒューマンエラーは、人間の意識を高めるということでは防げません。人間が信用できないという前提で、被害を防ぐシステムを作る、そこに頭を使うべきなのだと思います。センシティブな情報を扱う裁判所、検察庁、弁護士事務所は、肝に命じなければなりませんね。
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